Thoroughbred コア電圧

コア電圧の調整範囲が狭いマザーや、自動認識しか使えないマザーでもコア電圧設定のしくみを理解すれば、自分の希望するコア電圧を得るための改造もそう難しいことではありません。もちろんマザーに広範囲のコア電圧調整機能がある場合はその機能を使えば済むことですが...。

このページはThoroughbredコアのAthlon 2200+がベースとなっています。
Athlon [Paromino]、Duron [Morgan]及び、それ以前に発売されたプロセッサには適用できません。

コア電圧

CPUのクロックを定格よりも高い周波数で動作させるためには、通常コア電圧(Vcc_CORE)を上げて動作させますが発熱量も増大します。CPUの発熱を減らすためにはコア電圧を下げるのが最も効果的ですが、定格クロックのままコア電圧を低くしたのではオーバークロックと同様な状態になってしまいます。CPUに無理のない動作をさせるためには、十分な放熱対策は当然としてクロックに応じた妥当なコア電圧を設定できる機能が必要になってきます。

VID

CPUの定格コア電圧値を5bitのVIDコードとしてマザーボードに伝える役目がCPUのVID出力信号で、その出力されるコードはブリッジによって設定されています。当方の解析では、このVIDブリッジはCPUの内部で一方はGNDに、もう一方はCPUパッケージのVIDピンに接続されており、ブリッジのショート、オープンの組み合わせがそのままVID信号として使われていることがわかっています。


コア電圧の求め方
コア電圧 = 1.85v - (カットされているブリッジの電圧合計)

[例1] 図のようにVID3がカットされていれば、
コア電圧 =1.85v - 0.2v = 1.65v
[例2] VID3と、VID1がカットされていれば、
コア電圧 =1.85v - 0.2v - 0.05v = 1.6v


コア電圧定格
AMD Athlonプロセッサにおいて、コア電圧の許容偏差は、定格電圧から0.05V(コアによっては0.10V)程度と狭く、これを変更することはメーカーの保証対象外の行為となります。これを踏まえた上での話しですが、試しに『どの程度までコア電圧を上げても大丈夫なのか?』の問に一般的な答えはありません。 定格を超えたコア電圧で使った場合は、製品寿命に影響があるかもしれず、この影響をどう評価するかが人それぞれ違うからです。 この世代のプロセッサでは、個人的には、+0.05〜0.10V程度では目立った劣化が起こるとは思えませんが「+0.15Vや+0.20vではどうか?」というと微妙なところです。

『まあCPUは消耗品だから』という考え方ならともかく、『CPUは大切にする』という方は極端な電圧の変更は避けたほうが良いでしょう。 また、マザーによっては、仕様のためか低いコア電圧(あるいは特定の電圧)に設定した場合、起動できない場合もありますので注意してください。 もちろん信頼性を第一に考えれば定格または減定格での使用をお勧めしますが、そうするとこのページの意味はなくなってしまうことになりますね...。

最大コア電圧定格
データシートではAbsolute Ratingsと書かれている部分ですが、AMD Athlonプロセッサにおいて、この値は定格コア電圧の上下0.5Vとなっています(例えば1.65vのCPUでは、最小1.15v、最大2.15v)。 しかしながら、この値は「動作する」、「動作しない」のレベルではなく..... 非動作時やごく短い時間であったとしても、設計上これを一瞬でも超えることは許されないという値です。

これを超えた場合には、製品が破壊しなかったとしても、深刻な損傷をうける可能性があるはずだ、という数値を示しています。現実にはOCのデータとして2.15vとかも見かけることがありますが、これを試されている方はこのようなリスクを承知の上でやっているわけです。

L11 コア電圧設定ブリッジ

ThoroughbredコアではL11でコア電圧を設定しています。Mobile Athlon XPではさらにL8も同じ設定になっていますが、これはモバイル版専用のSOFT-VID用ブリッジのようで、通常のマザーでは無視されるはずです。 ブリッジとVIDの対応は左からID 4, 3, 2, 1, 0となっています、通常特定のブリッジを指す場合、たとえばID 4を指定する場合はVID[4]と、VID全体をまとめて指す場合はVID[4:0]という書き方をします。


モバイル版とデスクトップ版のVIDの仕様違いに注意

ブリッジからコア電圧を確認する場合、モバイル版CPUではMobileの欄の値を読みます、 しかし通常のマザーでは、たとえモバイル版CPUを差した時でも常にDesktop版のVIDとみなしてコア電圧が生成されることに注意してください。例えばモバイル版のコア電圧定格が1.30VのCPUでは、1.50Vのコア電圧として認識されることになります。(つまりモバイル版の1.30VのCPUとDesktop版の1.50VのCPUは同じVIDであるということ)

Athlon VID Code 1
VIDVCC_CORE (V)
[4:0]DesktopMobile
CCCCC1.8502.000
CCCC:1.8251.950
CCC:C1.800(N)1.900
CCC::1.7751.850
CC:CC1.750(M)1.800
CC:C:1.7251.750
CC::C1.700(P)1.700
CC:::1.6751.650
C:CCC1.650(K)1.600
C:CC:1.6251.550
C:C:C1.600(U)1.500(L)
C:C::1.5751.450(Q)
C::CC1.550(H)1.400(V)
C::C:1.5251.350(J)
C:::C1.500(L)1.300(W)
C::::1.475 -
Athlon VID Code 2
VIDVCC_CORE (V)
[4:0]DesktopMobile
:CCCC1.4501.275
:CCC:1.4251.250(X)
:CC:C1.4001.225
:CC::1.3751.200(T)
:C:CC1.3501.175
:C:C:1.3251.150(C)
:C::C1.3001.125
:C:::1.2751.100(Y)
::CCC1.2501.075
::CC:1.2251.050
::C:C1.2001.025
::C::1.1751.000
:::CC1.1500.975
:::C:1.1250.950
::::C1.1000.925
:::::No CPUShutdown

C がブリッジクローズ、論理0、該当するVIDピンはGND(0V)
: がブリッジオープン、論理1、該当するVIDピンはオープン


- これ以下はパロミノのコア電圧のページと,ほぼ同じ内容です -

コア電圧を変更する

コア電圧を手動設定にするには、マザーボード上などでCPUからのVID信号を無効にして、SW(スイッチ)などで設定した値をコアボルテージレギュレータのVID入力に直接渡すように変更する、というのが基本的な考え方です。
ただし、この信号はマザー側でVcc(5V)にプルアップされて使用しているはずです。 VID信号は、多くのマザーではプルアップされて使われていますが、その電圧は様々です(2.5V, 3.3V, 5.0Vなど)、プルアップ抵抗が無効にならないように注意します。 しかしHIP6301,HIP6302のデータシートによれば、チップ内部に一応プルアップ回路を備えていますから、必ずしもプルアップ抵抗が必須というわけではありませんが、改造でスイッチなどを追加した場合は内部のプルアップ抵抗だけでは動作が不確実になる可能性があります。


例えば、このようなSWを作成しCPUに代わってVIDを設定します。

スイッチの制作は簡単ですが、実はCPUのVID信号を無効にする方法が少々面倒です。
このため、CPUのVID信号は、そのままにして、このSWをソケット裏のVIDピンに配線する方法でもかまいません。 この場合、対応するブリッジがオープンになっていないとこのSWによる設定が有効になりませんから、 コア電圧を下げることはできませんが、全部ONにすれば1.85Vになります。

VID SW設定
VID [4:0]
電圧(V)DIP SW
12345
ID[4][3][2][1][0]
1.85CCCCC
1.80(N)CCC:C
1.75(M)CC:CC
1.70(P)CC::C
1.65(K)C:CCC
1.60(U)C:C:C
1.55(H)C::CC
1.50(L)C:::C
1.45(Q):CCCC
1.40(V):CC:C
1.35(J):C:CC
1.30(W):C::C
1.25(X)::CCC
1.20(T)::C:C
1.15(C):::CC
1.10(Y)::::C


C=ON , :=OFF
この表ではDIP-SWの5番、VID[0]がONに固定としてOFFの場合を省略しています。 OFFの場合の電圧は0.025V低くなります。


CPUのVID信号を無効にさせるには、次の方法のどれかを使う
L11ブリッジの加工
L11ブリッジをすべてオープンに加工します、作業は比較的楽で、カッターでブリッジを切り離せるようです。。
VIDピンカット
CPUのVIDピンをすべてカットする、お手軽で確実ですが、元に戻すことができないので...。
PKOCK7-EV6
アスロン用の例の倍率変換下駄を使って改造する、テスト用には便利です。
パターンカット
VIDピンから出ているパターンを追い、コアボルテージレギュレータの入力ピンに接続されていることを確認します。 次にソケット裏のVIDピン脇でVIDパターンをカットします。 しかし、実際にはコア電圧をある程度コントロールできるマザーの場合には、コアボルテージレギュレータの前にコア電圧を変更する回路が載っているわけですから、この回路の入力側を横取りする必要がありますから、パターンカットの場所と、DIP-SW配線の接続場所の特定が難しくなります。
その他
VIDピンに極細のチューブをかぶせて絶縁してしまうとか、ソケットの対応するピンを抜くという荒技も聞いたことがありますが......。
コアボルテージレギュレータ

コア電圧を生成する回路で、そのコントロールをしているLSI(HIP-6302など)の入力ピンをSWで設定するようにすれば自由にコア電圧を変えられるはずです、マザーボードによって使っている製品が違いますから、この部分はマザーごとに対応しなくてはならないので少々面倒です。

VIDブリッジ加工について

ブリッジ加工で、V_COREを変えようとするときは、使用するCPUがモバイル版、デスクトップ版のどちらの場合でも、 デスクトップ用のマザーに対してコア電圧IDを送るわけですから、 必ずDesktop版のIDを使って設定します。ただしモバイル版専用マザーを使っていたら、話は別です。

VID、コア電圧の制限

マザーボードによっては、起動できるコア電圧が制限されていることがあります。 BIOSが制限しているか、コア電圧レギュレーターの都合によるものでしょう。

作成:2002/06/21、再構成:2003/03/11、最終更新:2009/07/30