Barton コア電圧

コア電圧の調整範囲が狭いマザーでも、コア電圧設定のしくみを理解すれば、自分の希望するコア電圧を得るための改造もそう難しいことではありません。もちろんマザーに広範囲のコア電圧調整機能がある場合は、その機能を使えば済むことですが...。

このページはBartonコアのAthlonがベースとなっていますがThortonも同様です、
また基本的にはThoroughbred及びApplebredと共通する内容になっています。
Athlon [Paromino]、Duron [Morgan]、及びそれ以前に発売されたプロセッサには適用できません。

コア電圧

CPUのクロックを上げて動作させるためには、通常コア電圧(Vcc_CORE)を上げて使いますが発熱量も増加します。発熱を減らすためにはコア電圧を下げて使うと効果的ですが、定格クロックのままコア電圧を低くしただけではオーバークロックと同様な状態になってしまいます。

CPUを安定した状態で動作させるためには、十分な放熱対策は当然として、クロックに応じた妥当なコア電圧を設定できる機能が必要になってきます。

VID

CPUの定格コア電圧値は5bitのコードとしてCPUから出力されています、これはVID信号と言われ、VIDブリッジL11によって設定されています。
VIDブリッジはCPUの内部で一方はGNDに、もう一方はCPUパッケージのVIDピンに接続されているようですから、ブリッジのショート、オープンの組み合わせがそのままVID信号となって使われています。


コア電圧 = 1.85 - (カットされたブリッジの電圧合計)

[例1] 図のようにVID3がカットされていれば、
コア電圧 =1.85v - 0.2v = 1.65v

[例2] VID3と、VID1がカットされていれば、
コア電圧 =1.85v - 0.2v - 0.05v = 1.6v


L11 コア電圧設定ブリッジ

L11はコア電圧を設定しています。ブリッジとVIDの対応は左からID 4, 3, 2, 1, 0となっています、この順番のとき、VID全体をまとめて指す場合はVID[4:0]という書き方をします、また特定のブリッジを指す場合、たとえばID 4を指定する場合はVID[4]と書いています。

L11
Athlon XP-M(Mobile Athlon XP)ではさらにL8も同じ設定になっているはずですが、これはモバイル版専用のSOFT-VID用ブリッジのようで、通常のマザーでは無視されるはずです。


ブリッジからコア電圧を確認する場合、Athlon XPやMPはDesktopの欄を、モバイル版CPUではMobileの欄の値を読みます、 しかし通常のマザーでは、たとえモバイル版CPUを使った時でも、常にDesktop版のVIDとみなしてコア電圧が生成されるため、モバイル版のコア電圧が定格1.30VのCPUでも、1.50Vのコア電圧として認識されることになります。

Athlon VID Code 1
VIDVCC_CORE (V)
[4:0]DesktopMobile
CCCCC1.8502.000
CCCC:1.8251.950
CCC:C1.800(N)1.900
CCC::1.7751.850
CC:CC1.750(M)1.800
CC:C:1.7251.750
CC::C1.700(P)1.700
CC:::1.6751.650
C:CCC1.650(K)1.600
C:CC:1.6251.550
C:C:C1.600(U)1.500(L)
C:C::1.5751.450(Q)
C::CC1.550(H)1.400(V)
C::C:1.5251.350(J)
C:::C1.500(L)1.300(W)
C::::1.475 -
Athlon VID Code 2
VIDVCC_CORE (V)
[4:0]DesktopMobile
:CCCC1.4501.275
:CCC:1.4251.250(X)
:CC:C1.4001.225
:CC::1.3751.200(T)
:C:CC1.3501.175
:C:C:1.3251.150(C)
:C::C1.3001.125
:C:::1.2751.100(Y)
::CCC1.2501.075
::CC:1.2251.050
::C:C1.2001.025
::C::1.1751.000
:::CC1.1500.975
:::C:1.1250.950
::::C1.1000.925
:::::No CPUShutdown

C がブリッジクローズ、論理0、該当するVIDピンはGND(0V)
: がブリッジオープン、論理1、該当するVIDピンはオープン

コア電圧を変更する

コア電圧が設定できないマザーを使っている場合でも、次のような回路を付加することで変えられるはずです。 コア電圧を手動設定にするためには、マザーボード上でCPUからのVID信号を無効して、SWなどで設定した値をコアボルテージレギュレータに直接渡すように変更する、というのが基本的な考え方です。
ただし、この信号はマザー側でVcc(5V)にプルアップされて使用しているはずです。 VID信号は、多くのマザーではプルアップされて使われていますが、その電圧は様々です(2.5V, 3.3V, 5.0Vなど)、プルアップ抵抗が無効にならないように注意します。 しかしHIP6301,HIP6302のデータシートによれば、チップ内部に一応プルアップ回路を備えていますから、必ずしもプルアップ抵抗が必須というわけではないようです。


図のようなSWをソケット裏のVIDピンに配線します、しかしCPUのVID信号を無効にする方法が問題です。
このため、CPUのVID信号はそのままにしておいてもかまいません。この場合、対応するブリッジがオープンになっていないとこのSWによる設定が有効になりませんから、コア電圧を下げることはできませんが、全部ONにすれば1.85Vになります。


このSWを付加する改造は、オープンになっているL11ブリッジをクローズすることと同じですから、マザー側から見た場合、定格電圧が変わったかのように見えるだけで、原理的にマザーの電圧調整機能と併用しても問題はないはずです。 このため、コア電圧の調整が狭い範囲でしかできないマザーに取り付けると設定範囲が広げられることもあります.....といっても1.85Vを超える電圧になどなりません。

VID SW設定

VID [4:0]
電圧(V)DIP SW
12345
ID[4][3][2][1][0]
1.85CCCCC
1.80(N)CCC:C
1.75(M)CC:CC
1.70(P)CC::C
1.65(K)C:CCC
1.60(U)C:C:C
1.55(H)C::CC
1.50(L)C:::C
1.45(Q):CCCC
1.40(V):CC:C
1.35(J):C:CC
1.30(W):C::C
1.25(X)::CCC
1.20(T)::C:C
1.15(C):::CC
1.10(Y)::::C


C=ON , :=OFF
この表ではDIP-SWの5番、VID[0]がONに固定としてOFFの場合を省略しています。 OFFの場合の電圧は0.025V低くなります。


CPUのVID信号を無効にする方法、次のいずれかの方法を使います。
L11ブリッジの加工
L11ブリッジをすべてオープンに加工します、カッターで加工可能ですが、少々危険。
VIDピンカット
CPUのVIDピンをすべてカットする、お手軽で確実ですが、元に戻すことができないのが問題か...。
PKOCK7-EV6
アスロン用の例の倍率変換下駄を使って改造する、テスト用には便利です。
コアボルテージレギュレータのVID入力ピン加工
HIP6302などの、VID入力ピンをマザーボードから少々浮かせ(足あげ)このLSIのピンに直接VIDスイッチを接続する。
パターンカット
VIDピンから出ているパターンを追い、コアボルテージレギュレータの入力ピンに接続されていることを確認します。 次にソケット裏のVIDピン脇でVIDパターンをカットします。 しかし、実際にはコア電圧をある程度コントロールできるマザーの場合には、コアボルテージレギュレータの前にコア電圧を変更する回路が載っているわけですから、この回路の入力側を横取りする必要がありますから、パターンカットの場所と、DIP-SW配線の接続場所の特定が難しくなります。

補足説明

VIDブリッジ加工について

オーガニックパッケージのブリッジ加工はカッターで切れるものの、幅広く、あるいは深く切り過ぎると、パッケージの内部パターンが損傷する可能性が高く、失敗した場合の修復もほぼ不可能です。

また、ブリッジ加工で、V_COREを変えようとするときは、使用するCPUがモバイル版、デスクトップ版のどちらの場合でも、 デスクトップ用のマザーに対してコア電圧IDを送るわけですから、 必ずDesktop版のIDを使って設定します。ただしモバイル版用のマザーを使っていたら、話は別ですが....

VID、コア電圧の制限

マザーボードによっては、起動できるコア電圧が制限されていることがありますから、その設定によっては起動できない場合があります。 BIOSが制限しているか、コア電圧レギュレーター側の都合によるものでしょう。

コアボルテージレギュレータ

コア電圧を生成する回路で、一般的にはレギュレータ回路をコントロールをしているLSI(HIP-6302など)の入力ピンにCPUのVIDコードをそのまま入力すると指定のコア電圧が生成されます。ここでその入力をSWで設定できるようにすれば、自由にコア電圧を変えられるはずです、マザーボードによって使っている製品が違いますから、この部分はマザーごとに調べる必要があります。
Intersil : VRM ( Power Management )
onsemi / CS5157

コア電圧定格[↓Thoroughbredページとほぼ同じ内容]
AMD Athlonプロセッサにおいて、コア電圧の許容偏差は、定格から0.05V(コアによっては0.10V)程度と狭く、これを変更することはメーカーの保証対象外の行為となります。 これを踏まえた上での話しですが、『どの程度までコア電圧を上げても大丈夫なのか?』の問に一般的な答えはありません。 定格を超えたコア電圧で使った場合は、製品寿命に影響があるかもしれず、この影響をどう評価するかが人それぞれ違うからです。 この世代のプロセッサでは、個人的には+0.05〜0.10V程度では目立った劣化が起こるとは思いませんが「+0.15Vや+0.20vではどうか?」ではどうかというと微妙なところです(根拠はありませんが...)。

『CPUは消耗品だから』という考え方ならともかく、『CPUは大切にする』という方は避けたほうが良いかもしれません。 また、マザーの仕様によっては、低いコア電圧に設定した場合、起動できない場合もありますので注意してください。 もちろん信頼性を第一に考えれば定格または減定格での使用をお勧めしますが、そうするとこのページの意味はなくなってしまうことになるわけですが...。

最大コア電圧定格[↓Thoroughbredページとほぼ同じ内容]
データシートではAbsolute Ratingsと書かれている部分ですが、AMD Athlonプロセッサにおいて、この値は定格コア電圧の上下0.5Vとなっています(例えば1.65vのCPUでは、最小1.15v、最大2.15v)。

この値は動作、する、しない、のレベルではなく..... 非動作時やごく短い時間であったとしても、設計上これを一瞬でも超えることは許されません。これを超えた場合には、製品が破壊しなかったとしても、深刻な損傷をうける可能性があるはずだ、という数値を示しています。 現実にはOCのデータとして2.15vとかも見かけることがありますが、これを試されている方はこのようなリスクを承知の上でやっているわけです。


作成:2003/05/20
更新:2003/06/08
最終更新:2003/12/19